複数の子育てをする主婦の方から相談がありました。
何でも、「夫が風俗で知り合った女性に入れ込み、自宅にも帰って来ず入り浸っている」
「相手の女性が夫の子を身ごもり、出産すると言っている」
とのことでした。
不倫していること自体は争いがなく、しかし女性の方は「夫が進んで誘ってきたし、夫には(家庭に)戻ってもらって構わない」などと開き直る態度に終始しておりました。
また、経済的事情から慰謝料の支払ができないと述べておりました。
そこで、夫に対する有責配偶者であることを全面的に主張するための伏線としても判決で不貞の有無や慰謝料を白黒つけるため、損害賠償請求訴訟を提起することになりました。
なお、ご相談者は、夫と離婚するつもりがありませんでした。
交渉・調停・訴訟等の経過
訴訟では、主に、①不倫「前」の夫婦・家族関係が円満であったことの証拠、②不倫「後」の夫婦・家族関係に与えた影響が極めて悪いこと、③不倫の主張及び証拠、④子を認知し、同棲を続けていること、⑤その他被告の言い訳に対する反論(裁判例を中心に)を行いました。
本事例の結末
結論としては、おおむね原告側の主張が受け入れられ、判決では、275万円およびこれに対する初回の不倫時から支払済みまで年3%の割合による金員を支払うように命令が下りました。
判決理由の中では、
・婚姻期間〇年を超える夫婦であり、〇人の子と共に円満な家庭を営んでいたこと
・夫が不貞行為に及び被告が懐胎するに至り、夫婦関係は根本から破壊されたこと
・原告はひどく傷つき、裏切られて傷ついた年少の子を抱えながら、適応障害に苦しんでいること
・被告は、原告の夫と夫婦同然の生活を継続し、家族と夫との心理的な離隔を拡大させ続けていること
・(被告の「夫が勝手に帰らないだけ」との弁解に対し)結局、被告は、原告の夫を受け入れ、原告の損害を深刻化させていることから、原告側の損害に対し、原告の夫と共同して重い損害賠償責任を負うべきであること
がきちんと認定されました。
本事例に学ぶこと
不貞慰謝料を請求する場合に、
①配偶者に請求する
②相手方に請求する
③両方に請求する
というパターンがあります。
今回は、②を選択しました。
というのも、夫と離婚するつもりはなく、婚姻費用の受給を続ける必要もあることから、不貞相手に対する請求のみを行いました。
しかし、不貞相手の経済力は限られており、回収困難である可能性はあらかじめ想定しておりました。もっとも、判決で定めておくことで、夫に対する強力な牽制(有責配偶者からの離婚請求は認められない)になることから、提訴に踏み切りました。
判決が確定することにより、この判決は、今後、夫との離婚裁判などの別の争いでも有効に利用できます。このように例え不貞相手から直ちにお金を回収できなくても、10年以内に強制執行することも可能になりますし、判決を得る意味は大きいものです。
弁護士 時田 剛志